高校生の時のはなしです。

友達数人が集まって「バンドやろうぜ!」という魅力的な提案が持ち上がったとき、私は「やる、やる、…絶対やる。俺にやらせろ!何?ベースがいない?じゃ、オレがベースだ!」と強引に約束を取り付けて家に帰りました。

 

ところが、家に帰ってみたところで肝心の楽器がありません。

もちろん貯金もゼロ。月々の小遣いはスズメの涙で、しかもアルバイトも禁止とくれば、地道に貯金をしていたのでは青春が終わってしまいます。

しかし、このチャンスを逃してしまえば、自分は生涯バンド活動なんてしないだろうという確信がありましたから、唯一残された道、…昼食代貯金にすがりました。

 

2ヶ月間、毎日毎日昼食を抜き続け、それでも一番安い楽器に遥かに届かず…、(当時は今のように安く買える楽器はありませんでした。)正直、途方に暮れてしまいました。

ところが、そんなある晩のこと、大変に厳しかった父に呼びつけられます。

恐るおそる部屋を訪ねると「オマエ、最近、昼飯を抜いているそうじゃないか、……バカなことはやめなさい!」わたしは「来たあぁぁ」と思って、しかし、「はい、やめます」とも言えずに黙ってうつむいていると、「あと幾ら必要なんだ?」…と続きます。

「……え?」「だから、あと幾ら必要なのか言いなさい。」情報はすべて筒抜け。

…スパイは母親。

結局、差額を貸してもらって、無事、ベースを買うことができました。

 

そして、そのベースは、その後永いことわたしの最高の宝物であり続けたのです。

 

今日のはなしには3つのポイントがあります。

1.真剣に努力をしていれば、誰かが扶けてくれる。
2.苦労して手に入れたものは宝物になる。
3.父親からの負債は孝行で返済可能?

榎本飛里