ある注目を集めた裁判でのこと、ロバート・ルールと言う人物が法廷にいた全ての人々を驚かせました。グリーン・リバーの殺人鬼と称された男、ゲーリー・リッジウェイによる連続殺人事件は、犯人逮捕に至るまでに数十名におよぶ犠牲者を出しました。裁判が始まると、遺族たちに犯人に対する心の内を吐き出す機会が与えられました。ロバートもそのひとり。大切な娘を奪われています。

  

 法廷にリッジウェイが連れて来られると、遺族の視線は憎しみを込めた矢のように彼を射すくめます。そして、遺族らは順番に一人、また一人と彼に呪いの言葉を吐き、犠牲となった家族が自分たちにとってどれ程かけがえのない存在であったか、それを奪ったリッジウェイが如何に人で無しかをまくしたて、最も苦しい刑を受けるようにと切望します。しかし、リッジウェイは眉一つ動かすことなく、彼らの言葉を淡々と受け止めていました。そこへ、ロバートの番がやって来ます。

  

 彼は大きく息をつくと、ゆっくりとこう述べたのです。「リッジウェイさん。ここにあなたを憎んでいる人々がいますが、…わたしは彼らとは違います。あなたは、わたしが信念を貫くのを難しくしてしまわれた。その信念とは、神がそうするようにと命じられたことで、つまり『赦す』ということです。…わたしはあなたを赦しています。」誰もが耳を疑うような赦しのことば。そして、更に人々を驚かせたのは、途端にリッジウェイの表情が崩れ、涙を拭ったということです。

  

 赦しには力があります。簡単なことではありませんが、チャレンジする価値があるものです。

  

「わたしたちにとって本当の復讐とは赦すこと。その人のために祈ること…(ドン・ボスコ)」