二十代も半ばとみられる青年。列車の窓から身を乗り出すようにして興味深げに外を眺めては、そばにいる初老の男性に「ねえ、父さん見て。木が動いてる。凄いね。早いね!」と叫びます。呼び掛けられた男性は微笑みながら頷いていましたが、そばに座っていたカップルは顔を見合わせて笑いを堪えている様子。すると今度は「わあ、雲は僕らと一緒に動いてるよ、父さん。雲はついて来るんだね!」と続いたものだから、とうとうカップルは噴き出してしまいます。それどころか「おい、大丈夫か?医者に診てもらった方が良いんじゃないの?」と、わざと聞こえるように言っては爆笑している。

  

 

 そこで初老の男性はカップルを振り返ると、微笑みながら「いい医者には診てもらったんだ。…生まれつき目が不自由でね。つい最近手術が成功したばかりなので、見るもの全てが新鮮で仕方ないんだよ。赦してくれるかい?」と語りかけます。カップルはハッとした表情をして、「ごめんなさい」と呟くと眼を伏せてしまいました。物事が見えていないのは自分達の方だったと気づいてしまった様子です。

   

 

 人にはそれぞれ事情があり、生きてきた背景=人生があります。いつも通りの自分の視点を変えることができなければ、人を理解すること、人に寄り添うことは極めて困難。しかし、私たちは諦めません。それが、愛の表現であると知っているからです。人を愛するように造られているからです。