2025年07月10日

普遍性と土俗性が連続するロシア——「聖書=ドストエフスキー作品」という発見

図書室で様々な小説を読むのが好きな人もいるでしょう。私もサレジオ学院時代に図書室で様々な本を読みました。挫折したこともあります。すごく背伸びをしてドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に幾度も挑戦しましたが、毎回途中で投げ出しました。

 

しかし最近、ひとつの発見をして独りで喜んでいます。ドストエフスキーは聖書の内容をロシア社会とひとつながりの呼びかけとして自然体の姿勢で呼吸をするように自在に採り入れています。それゆえドストエフスキーの作品全体が現代の聖書なのです。「聖書=ドストエフスキー作品」という連続性に迫力があり、読者の生き方を奥深く変容させます。

 

人間の普遍的な問題点をロシア地域の生活の現実に根差して物語る土着性を備えた文学を創り上げたのがドストエフスキーです。言わば「普遍性」と「土俗性」とが連続する独自の文学を創りました。スマートさと泥臭さとがブレンドされてコクのある珈琲みたい。「普遍性」とは、いつ・どこでも・誰にでも共通する性質のことで無色透明さがあり、「土俗性」とは「土着性」とも言えるものであり特殊な限られた環境で他とは異なる独自性を強烈に訴えかける泥まみれの性質のことです。普遍性は「世界性」とも言い換えられ、土俗性は「辺境性」と言い換えることができます。

 

ロシア文化そのものが土着の土俗性を根深く宿しますが、西側のヨーロッパへの憧れを抱きつつ急速に科学技術や経済振興システムを採り入れて追いつこうとしました(普遍化)。ヨーロッパはロシアより西側に位置し、輝かしい科学技術振興と経済の高まりをもたらした普遍的な文明なのに対して、ヨーロッパから見て東側の辺境のロシアは後進地域であり農業主体の堆肥まみれで前近代的な遅れた生活環境であるわけです。ドストエフスキーはロシアの焦りを小説の書き方を洗練させて巧みに方向づけて、ヨーロッパの文壇に闘いを挑み、重厚な土着性をも残存させたまま普遍化させ、独自性を生み出しました。

ドストエフスキーの肖像画 by Vasily Perov

ドストエフスキー肖像画(ヴァシリー・ペロフ作 1872)