2023年09月28日

心強い問題解決をうながす「妖怪学」

 「妖怪」を見たことがある人はいますか。日本では「妖怪学」という学問分野があります。『妖怪学講義』を初めて行った井上円了や『百鬼夜行絵巻の謎』(集英社、2008年)などの作品がある小松和彦が著名です。ふだんは見えない妖怪たちを研究するわけです。

 

江戸時代ごろから、さまざまな妖怪が描かれました。粗雑に扱われて壊れたお皿や下駄に手足がついた品物のかたちの妖怪もいれば、自然環境を破壊する人間たちに反抗して巨大化した化け猫や河童などの生物的な妖怪もいます。恨みや怒りによって心をゆがめられた挙句にからだも変化した人型の妖怪もいます。こうして分類すると、物か生物か人間か、だいたい三種類の妖怪の姿が浮かびます。人間は三つの方向で相手を傷つけるわけです。

 

 百鬼夜行絵巻を見ればわかるように、ふだんは見えない妖怪たちが真夜中の闇の中でうごめいて活動します。夜は怖いものです。私も先日、本来ならば30人以上が住むような東京カトリック神学院の広大な敷地で、たった独りで一週間留守番しました。少しおびえて過ごしました。「妖怪さん、なんか用かい?」とつぶやきながら。江戸時代の日本人がさまざまな妖怪の絵を描いて数限りないイメージが生みだされた背景には、真夜中の漆黒の闇に対する恐ろしさや人間の心細さがあるのでしょう。おびえる人間の心が妖怪を生みます。

 

 「妖怪学」とはイメージキャラクター化された多様な妖怪の意味を集中して探ることで、それぞれの時代を生きる人々の心の中に潜むおびえや不安を理解する学問です。こうして「妖怪学」とは決して荒唐無稽な空想の話題を追い求めるものではなく、むしろ人々の心の中のおびえや不安を徹底的に眺めて相手を支えるおもいやり深さとも結びつく、心強い問題解決の方法論を明らかにする学問として重要な意味を備えていることがわかります。

 

※井上円了(いのうえ・えんりょう1858-1919年、仏教哲学者、教育者)。哲学館(東洋大学の前身)を設立し、多様な視点を総合化する独自の学問観を数多くの青年たちに授けました。

 

※小松和彦(こまつ・かずひこ1947年-、民俗学者)。小松先生は京都の国際日本文化研究センター所長を長く務め、妖怪関連のあらゆる巻物や研究文献を精力的に蒐集することで世界的な価値のある資料館を整備した「妖怪学」の第一人者です。阿部も末木文美士先生(すえき・ふみひこ1949年-、仏教学者)からの招きで2009年から14年にかけて毎月京都に通い、同センターの共同研究員として仏教の一部門に所属した際に、小松先生の研究姿勢をまぢかで学びました。もともと阿部は小松先生の『憑霊信仰論——妖怪研究への試み』(ありな書房、1984年)や『異人論——民俗社会の心性』(青土社、1985年)を1987年に読み、その後も全著作を揃えて「妖怪学」が熟成するプロセスをたどった経緯があり、先生の研究の仕方に大いに憧れていました。