1学期終業式 校長講話「ファベーラの漫画家」

前に『約束のネバーランド』という漫画を交えて、「あえてリスクをとってチャレンジしよう、希望に向かって抗おう」、とみなさんに話しました。とはいえ抗っても失敗することもありますよね。「失敗とどう向き合うか?」「失敗の向こうに希望はあるか?」、これも避けて通れないテーマです。で今回教材として選んだのは『ファベーラの漫画家』という漫画です。

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まずはざっとストーリーを紹介します。「ファベーラの漫画家」は二人の漫画を愛する人物を軸に展開していきます。一人は日本人竹井弘人、30歳。彼はずっと連載漫画に採用されることを目指しますが企画会議で落選につぐ落選、ついに諦め、心を癒すため外国に旅に出ます。そこで迷い込んだのは、犯罪や貧困が渦巻くファヴェーラです。

 

皆さんファベーラって知っていますか?ファベーラとはスラム街、治安も悪く、ギャング同士の抗争が日常的に繰り広げられています。銃声が常に聞こえ、下手をすれば目の前で殺人が起きることもあります。観光客は絶対行ってはいけない場所、万が一入ったらスリに会うどころか、生きて帰らないかもしれない場所です。そこに住んでいる大人に明日の命の保証がないし、子ども達もいずれギャングに入り、銃を持たされ抗争に巻き込まれていきます。

 

ファベーラはどこにあるか?ブラジルなんです。つまりヒロトは地球の反対側、ブラジル、サンパウロに行ったわけです。
そこで彼が出会ったのは、15歳の少年ジョアン。この出会いがヒロトに大きな影響を与えます。ジョアンは「日本の漫画家になりたい」という突拍子もない夢を抱いていることを弘人は知ります。とはいえジョアンはファベーラに住んでおり、家族はとても貧しいわけです。ファベーラにいて貧しいということは単に経済的に苦しい、というだけでなく、生きていくために子どもはいずれギャングに入らなければならないという、ほとんど本人の選択を超えた運命のようなものもあるんですね。
そんなジョアンですが、ヒロトは、彼の絵を見て、才能とセンスを発見し、自身が忘れていた漫画への情熱を思い出します。ヒロトは貧しいという運命に身を任せようとしているジョアンに銃でなくペンを持とうと漫画家になるよう励まします。こうして二人は日本の漫画賞に応募するという目標を掲げ、ファヴェーラの厳しい環境の中で、夢を追う挑戦を始めるんですね。

 

この物語は、ヒロトの挫折から始まります。ストーリーには一貫して「夢にチャレンジして失敗しても、挫折の向こうには希望の展開が必ずある」というテーマが流れているように感じます。挫折は終わりではなく、一つの転期で、挫折があって初めて希望とチャンスが生まれてくるわけです。
ヒロトは自分の挫折を通して、ジョアンを漫画家としてデビューさせるという新しい夢を発見します。誰かのために「ひと肌脱ぐ」こと。人を生かすという生きがいを見つけたわけです。サレジオ的に言うなら、ヒロトは失敗を通して自分の「召命」を発見したわけです。

 

自分は読んでいて、ベタですが、何かができなくても諦めなくていい、新しい自分がそこにいるんだという強いメッセージに励まされる思いがしました。

 

ところでこれからのジョアンはどうなっていくのでしょうか?ジョアンは漫画家として生きていけるのか、あるいはその前にギャング同志の抗争に巻き込まれてしまうのではないか…あまり楽観的にはなれませんが…この先はこれは皆さんご自身で確かめてください。『ファベーラーの漫画家』第2巻が今年の秋に出ます。今日はここまで。

 

漫画の帯には「ふたりで描け未来と希望。」と書いてあります。さあ夏休みですね。夏休みはいろいろな活動がある、部活、勉強。みんなと一緒にやることがありますね。サレジオ祭もあります。ぜひ失敗を恐れず争ってください。ちょっと失敗したように見えても引き下がらず、抗ってください。何かの展開があるはずです。

 

終業式に皆さんには「みんなで描け 未来と希望。」と言うメッセージで締めくくりたいと思います。失敗をお恐れずにチャレンジ、そして失敗してもその向こうには希望につながる展開があると信じましょう。
「みんなで描け 未来と希望。」
ありがとうございました。

みんなで描け