2025年09月11日
新潟の日本酒『上善如水』を飲む
新潟には、いくども講演をしに出向きました。その際に感動しました。新潟の地元の日本酒『上善如水』(じょうぜんみずのごとし)の味わいに驚かされたのです。まるで、さわやかな水のようにすんなり飲める、おいしい日本酒のまさに「ふつうさ」に感動させられました。何ら背伸びすることなく、ありのままにおいしい、そぼくさが、当たり前すぎて、安心感を与えてくれるのです。何杯飲んでも、のどごしがよくて、品のよいお酒です。料理でもそうですが、そぼくなのが一番おいしい。自然体の味。普段のしあわせ。
皆さんは、12歳から18歳のあいだの年齢ですので、まだまだお酒を飲める年齢ではありませんが、どうか『上善如水』を記憶しておいてください。将来飲んでみてください。「じょうぜんみずのごとし」とパソコンで打ち込むと漢字に自動的に変換されます。
『上善如水』とは、実は中国の古典『老子』第八章のなかに出てくる言葉です。引用しておきます。——「最上の善なるあり方は水のようなものだ。水は、あらゆる物に恵みを与えながら、争うことがなく、誰もがみな厭だと思う低いところに落ち着く。だから道に近いのだ。身の置きどころがよく、心の持ち方は静かで深いのがよく、人との付き合い方は思いやりを持つのがよく、言葉がまことであるのがよく、政治はよく治まるのがよく、ものごとは成りゆきに任せるのがよく、行動は時宜にかなっているのがよい。そもそも争わないから、だからとがめられることもない」(蜂屋邦夫訳註『老子』岩波書店、2012年、39頁)。謙虚に、柔軟に、水のように生きることが最善の姿勢であるわけです。
『上善如水』という新潟の日本酒は『老子』の言葉をもとにして、水のようにそぼくで、なじみやすい性質の味わいを創り出すことに成功したのです。そして、私も『老子』を読み返すたびごとに、水のように生きてみたいという憧れをいだきます。戦国時代の名参謀の黒田官兵衛も隠居後の名前として「如水」(じょすい;水のように生きる)と名乗りました。
「IOSUI SIMEON」シメオン黒田如水(1546-1604年)の印章