朝の話|鳥越校長
2026年03月09日
あなたがたは地の塩、世の光である <AI時代に召命を生きるため>
(卒業式の言葉)
本日サレジオ学院を卒業する61期の皆さん、卒業おめでとうございます。そして保護者の皆様、これまでの皆様のご子息に対するアシストに深く敬意と感謝を申し上げます。今日は先ほど読まれた聖書の言葉「あなた方は地の塩、世の光である」ということについてお話しします。
「である」という表現の意味するところは行為ではなく、存在様式、生き方の根底にある価値観です。君は何者か?という問い、つまり召命を表しているわけです。また「〜である」という肯定文は同時に強い命令でもあります。「そうなりなさい」、「召命を実現しなさい」という招きなのです。
今日は「塩、光」を通してイエス様が何をおっしゃりたいかについては触れません。それはサレジオの6年間で学び、身につけたと思います。逆に、言えなければ卒業証書を返してください(笑 )かわりに「それに至るプロセス」に目を向けたいと思います。
食卓の上にある塩を思い出してください。私たちのもとに届く前に製塩には長いプロセスが必要です。古来より日本では海水を天日に干して濃度を上げ、さらにそれを煮詰めて塩を作るという時間も手間もかかる方法で塩を作ってきました。世界では岩塩の方がメジャーだということです。実はこの岩塩も簡単には手に入りません。掘り出す手間がかかります。そもそも岩塩は古代に海だった場所が何万年もかかって隆起した場所でしか取れません。そんな気の遠くなるようなプロセスがあるんですね。塩を振りかける時、俺と出会う前にお前は幾多のときを経てきたんだなあ〜と感慨深く語りかけてください。
そして塩である君たちも、塩になるために時間がかかるということを肝に銘じてください。君たちはこれから大学に進みます。つまり高等教育を受け学問を身に付けます。学問は「地の塩」という召命を実現するために有効なツールです。
学問をおさめるには長いプロセスが必要です。真理を探究するため4年間あるいはそれ以上じっくり向き合ってください。生成AIが存在している今だからこそ、AIができない、君自身にしかできない領域を大切にしてください。AIができないこと、それは考えること、問うことです。考える、問うという行為は自分にとっては君自身にしかできません。拙速な結論や解答に飛びつくのではなく、その過程で感じる不安、ざわめき、変化と向き合うことです。考えるという長いプロセスを引き受けること、楽しむことは君にしかできません。簡単に手早く結論が手に入る今だからこそ、あえて最初に感じた疑問を温め、その後のモヤモヤ感にじっくり付き合ってください。自分で調べ、考え、そしてある瞬間に霧がさぁ〜と晴れて「そっか〜」と思える快感を味わってください。解決はゆっくりと自分の内面で育つものです。学校 school の語源はラテン語のスコラ scholaです。スコラは暇という意味です。学校が暇? と思うかもしれませんが、学問や思索には時間がかかるという古代ローマ人の知恵がそこにあります。彼らにとって学問は最高の贅沢だったわけです。
次に光です。ロウソクに火が灯っているとしましょう。でもロウソクは勝手に火はつきません。誰かが火をつけなければ光らない。ですから「光である」君が今光っているなら、自分一人では今の自分になれなかったこと、誰かがまず火をつけてくれたことに想いを馳せてください。これまでの18年間の長い人生のプロセスの中で出会った保護者、家族、先生、友人、そしてその背後にある神様の眼差し、その恩義を感じることによって君たちは真の光となれます。
AIの時代に生きる君たちは、AIが提供できないこと、君自身しか引き受けられない領域を大切にしてください。それは「目に見えないものを感じ取る力」、「まだ言葉になっていないことを読み取る力」、「深さを持つ人間」となるプロセスです。先日ノブレス・オブリージュの話をしました。その際の上野千鶴子先生の言葉を思い出してください。
「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったということを示していることを忘れないようにしてください。あなたたちが今日『がんばったら報われる』と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してくれたからこそです。あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを助けるために使ってください。」と上野先生は語りました。
密かに誰かの人生に味を添え、傍でそっとその人を照らしてあげられる、そんな「地の塩、世の光」となってください。もとい君たちはすでに「地の塩、世の光」ですね。そんな皆さんの召命の完成のために神様の祝福を祈ります。
本日はご卒業おめでとうございます。


