朝の話|榎本神父
2025年11月22日
対話のステージ
南アフリカ出身のジャーナリスト、ララ・ローガンさんは、CBSニュースなどで長年、戦場や紛争地域を取材してきた記者です。真実を恐れず語る報道姿勢で知られる彼女が、近年の講演で「イスラームは宗教ではなく、文明そのものである」と語り、波紋を呼びました。
この発言の意図は、信仰そのものを否定することではなく、宗教を政治の道具として利用し、社会全体を支配しようとする潮流への警鐘にあったと考えられます。しかし同時に、この言葉は多くの人々に「イスラム信仰そのものの否定」と受け取られる危険もはらんでいました。
この出来事は、宗教や思想を語ることの難しさを私たちに教えてくれます。宗教や思想は、単なる個人の信念ではなく、文化や社会の基盤に深く結びついたものだからです。だからこそ、それらに言及するとき、私たちは慎重でなければなりません。自分の言葉がどこまで届き、誰を救い、誰を傷つけるのか…。その先を想像することが大切です。
自分の主張を言葉にすれば、そこに必ず力が宿ります。その力は、人を導く光にもなれば、傷つける炎にもなります。だからこそ、真実を語る勇気と、敬意と配慮に根ざした慎重さの両方が求められます。ローガンさんの発言と人々の反応は、それらを両立させることの難しさを象徴していると言えるでしょう。
宗教や思想を対話というステージに乗せるためには、「誤解を恐れず発言する勇気」と「誤解させない慎重さ」を両立させなければなりません。前者だけでは扇動に、後者だけではただの沈黙に陥ってしまいます。
