朝の話|阿部神父

2026年05月14日

人間は「くそぶくろ」である(人間は大した者ではない)

 これまでの人生において、あまりにも強烈な印象を受けた言葉があります。「人間は『くそぶくろ』である」という言葉です。仏教の禅宗の格言です。どんなに表面をかっこよく飾り立てて自分を高めたとしても決して変わらない真実が、「人間が『くそぶくろ』である」ことです。つまり、どのような人もおなかにくそを内蔵して生きているわけです。くその立場で世の中をながめれば、くそをつつみこむようにして内臓や皮膚がふくろの役割を果たします。「あらゆる人は、みんな大した者ではない」という真実を突き付ける問いかけがなされます。自分は「くそ」をつつむ者でしかないという現実に気づくときに、謙虚さが生まれます。しかも「くそ」は良質な肥料として作物を育てます。そして2017年3月に文響社から刊行された『うんこ漢字ドリル』が爆売れして、子どもたちは愉しく勉強に励みました。さらに「便移植」※(正式には「糞便微生物叢移植」:FMT = Fecal Microbiota Transplantation)は人間のからだの質を内側から新しくして免疫を高め、難病から回復させます。うんこは人を救います。


 室町時代の一休宗純が「人間、所詮は五尺の糞袋だ」と述べたという伝説があります。「人間は、せいぜい150cmほどのくそぶくろであるに過ぎない」という意味です。江戸時代には勝海舟も「人間は五尺三寸(160㎝)の糞ひり袋だ」と語りました。こうした格言を聞いたときに妙に納得させられました。それ以来、「人間とはなにか」という問いかけに対して「くそをつつみこむふくろである」と応えています。まさに、どの人にも当てはまる真実を見事に言い当てていることに感服させられます。私が服装を整えて表面上を取り繕ったとしても、内側には汚いものを抱え込んで生きているわけです。イエス・キリストも「人の中から出てくるものが人を汚すのである」(マルコ7・16)と述べています。


 坐禅を組んで禅仏教の厳しい修行を毎日続ける修行僧でさえ、自分とは異なる性別の人間(女性)に憧れ、恋い慕って想い続ける場合もあり、修行に集中できません。いわゆる「煩悩」にさいなまれます。すると徳の高い指導者が「人間、所詮は五尺の糞袋だ」と怒鳴りつけて弟子の迷いを吹き飛ばしました。日本には他にも平安時代の美女の死を描いた「小野小町図」(九相図[くそうず])※2があり、鎌倉時代にはやりました。絶世の美女が死んで次第に腐り、骸骨になる九つのプロセスを巻物に描き、順序よくたどって眺め、美しい人間でさえ、はかなく滅びる者だと悟ることで煩悩から解放される仕組みです。

九相図


※1.「便移植」とは、健康な人の腸内細菌を、患者の腸に移植する治療法です。目的は、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)を正常な状態に戻すことです。腸内細菌は、免疫、消化、炎症、代謝などに深く関わっており、これが乱れるとさまざまな病気が起こりやすくなります。抗生物質の乱用などで腸内細菌が破壊されると、C. difficile[解説参照↓]が異常増殖し、重度の下痢や腸炎を引き起こします。この病気に対してFMTは非常に効果が高く、治療成功率は 80〜90% と報告されることもあります。 解説;C. difficile(クロストリジウム・ディフィシル)は、クロストリジウム・ディフィシル腸炎(CD腸炎)や偽膜性大腸炎(ぎまくせいだいちょうえん)を引き起こす細菌です。この細菌は、抗生物質の使用によって腸内の正常な細菌バランスが崩れることで増殖し、炎症を引き起こします。主な症状には、下痢、腹痛、発熱などがあります。

※2.『大智度論』や『摩訶止観』を参照のこと。/山本聡美・西山美香『九相図資料集成——死体の美術と文学』岩田書院、2009年。山本聡美『増補カラー版 九相図をよむ——朽ちてゆく死体の美術史』角川書店、2023年。「九相図」によって描かれた人間の腐敗の九つのプロセスは以下のとおりです;①脹相(ちょうそう);死体が腐敗によるガスの発生で内部から膨張する。→②壊相(えそう);死体の腐乱が進み皮膚が破れ壊れはじめる。→③血塗相(けちずそう);死体の腐敗による損壊がさらに進み、溶解した脂肪・血液・体液が体外に滲みだす。→④膿爛相(のうらんそう);死体自体が腐敗により溶解する。→⑤青瘀相(しょうおそう);死体が青黒くなる。→⑥噉相(たんそう);死体に虫がわき、鳥獣に食い荒らされる。→⑦散相(さんそう);以上の結果、死体の部位が散乱する。→⑧骨相(こつそう);血肉や皮脂がなくなり骨だけになる。→⑨焼相(しょうそう);骨が焼かれ灰だけになる。

このページのトップへ