2023年10月12日

心のふるさと「牧野記念庭園」

 秋の涼やかな風が吹き始めた10月7日、練馬区立「牧野記念庭園」を見学しました。43年前から行きたかった場所をようやく訪れました。小学六年で牧野富太郎博士の伝記を読み、あこがれました。日本全体の植物を紹介する図鑑を作る決意を大震災や戦争にも負けずに成し遂げた迫力に圧倒されました。博士は植物分類学の研究を14歳から94歳に至る80年間も続けました。植物しか頭にない博士を支えた妻や子どもたちの理解力も見事です。

 

 誰でも無料で入れる「牧野記念庭園」は博士の晩年の家や植物園があった大泉村の土地に設立されました。記念館と講演館と書斎保存館と庭園から成る施設には、たくさんの家族づれが見学に来ていました。庭園には300種以上の植物が共存します。博士の書斎も再現され、雑然と置かれた本や書類が足の踏み場もないほど堆積し、いまも生きて研究作業に没頭するかのような息づかいが感じられました。

 

 案内役の老人が驚いていました。こんなに人が殺到するのは初めてのことだ、と。先日までNHK朝のドラマで『らんまん』という作品が放映され、牧野博士御夫婦のほほえましい協力関係が描かれたことで人気を博したのでしょう。庭園の一角に牧野博士の銅像とスエコササの植え込みが仲睦ましく調和して、すずしげな葉の音があたりをなごませます。博士は仙台で発見した新種のササに愛する妻の壽衛子の名前を永遠に刻み込んだのです。

 

 牧野博士の研究の集大成が『牧野 日本植物図鑑』ですが3235種類の植物の繊細で美しい絵が緻密な解説とともに凝縮されています。特に1500種類の新しい植物を博士が見つけて名前をつけたのです。心が落ち着く「牧野記念庭園」をゆっくりと歩きながら、まるでなつかしいふるさとを見つけたようなよろこびを実感した次第です。

 
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※牧野富太郎(Tomitaro MAKINO, 1862-1957年)。江戸時代・明治・大正・昭和を生き抜いた植物分類学者、理学博士(東京帝国大学)。明治時代の新制度の小学校を中退し、独自の勉強を自力で積み重ね、生涯かけて発見した新種の植物は1500以上、集めた植物標本は40万点、研究のために集めた書籍は45000冊におよびました。晩年の30年間を大泉村で過ごしました。牧野博士はたびかさなる借金生活で窮地に追い込まれたが、著名な実業家の池長孟氏(カトリック大阪名誉大司教の池長潤師の御尊父)の支援を受けて立ち直ることができました。

 

※牧野博士は1940年に『牧野 日本植物図鑑』を刊行しました。現在、阿部が使用しているのが以下の版です。牧野富太郎『卓上版 牧野 日本植物図鑑』北隆館、2019年。他に以下もお薦めです。田中純子『シン・マキノ伝』北隆館、2023年。高知新聞社編『MAKINO 生誕160周年 牧野富太郎を旅する』北隆館、2023年。長田育恵脚本『連続テレビ小説 らんまん完全版DVD BOX』1・2・3、NHKエンタープライズ、2023-24年(史実と理想の人間関係を絶妙なかたちで重ね合わせて、どの人物をも主役であるかのように掘り下げて描いた脚本はあまりにも見事で、特に「最終回」は感慨深い家族愛を丁寧に描きました)。朝井まかて『ボタニカ』祥伝社、2022年。なお、これは余談ですが『らんまん』の名コンビの神木隆之介と浜辺美波が共演する11月3日公開の映画『ゴジラ-1.0(ゴジラ・マイナスワン)』にも期待したいものです。

 

※練馬区立「牧野記念庭園」の情報は以下のとおりです。所在地;練馬区東大泉6-34-4/開園時間;午前9:00-午後5:00(企画展示は午後4:30まで);毎週火曜日は休園日/入場料;無料/JR中央線「吉祥寺駅」北口から西武バス61系統の「新座栄行」や「都民農園セコニック行」他に乗り、「学芸大附属前」下車・徒歩3分。あるいは西武池袋線「大泉学園駅」南口から徒歩5分。阿部の職場の東京カトリック神学院のそばの「武蔵関駅前」バス停から西武バスで「学芸大附属前」まで出向くこともできましたし、あるいは「大泉学園駅」南口からも歩いて行けました。みなさんは「吉祥寺駅」北口から61系統のバスに乗るか、「大泉学園駅」南口から5分歩くとよいかもしれません。