朝の話|阿部神父
2026年05月29日
「三位一体の神の居場所」としてのマリア
13世紀のヨーロッパ中世期に活躍した哲学・神学の専門家聖トマス・アクィナスは驚くべき言葉を残しました。「聖母マリアは三位一体の神の居場所である」。聖母マリアの心の奥底に神が住む、という意味です。聖母マリアに関する祈りを解説した『天使祝詞講話』に書いてあります。※ 神にとって、聖母マリアの心は心地よい居場所なのです。皆さんも、安心できる居場所があることでしょう。自分の部屋かもしれませんし、サビオ館のチャペルかもしれませんね。神にとっては聖母マリアの心こそが心地よい居場所です。
人間の心が温かく、愛情深い状態ならば、神が喜ぶ、ということを聖トマス・アクィナスが聖母マリアを手がかりにして述べました。ということは、心が冷え切っていて、愛情がない状態ならば、神は近寄らず、心地よさを感じない、とも言えるわけです。私たちひとりひとりの心はどうでしょうか。温かく愛情深い状態になっているかどうか。
「三位一体の神の居場所」である聖母マリアの心について、もう少し詳しく説明します。皆さんも学んだことのある旧約聖書はイエス・キリストの誕生を待つ時代のイスラエル民族の長い歴史を描きます。その時代は父親のように厳格な神の徹底的な指導力が強調されます。その後、あらゆる人に救いをもたらすイエス・キリストが神の子としての圧倒的な愛情の実力を伴って生まれ、三年間の活躍で人々の意識を変革しました。その経緯が新約聖書にまとめられます。イエスが後のことを弟子たちに託して、この世から去ってからは、目立たず、ひっそりと弟子たちを見守る聖霊が(いのちのいぶきが)心の底を温めて熱意を生じさせ、愛情の深さを実現させます。聖母マリアは旧約時代に生まれてイエスを宿し、育てることで新約時代を実現させ、イエスが去った後も弟子たちを支えて聖霊のいぶきのなかでキリスト者の教会共同体を励まします。父・子・聖霊のすべての時代に連続して関わるのが聖母マリアです。それゆえ聖母マリアの心には三位一体の神が喜んで留まることがわかります。一世紀の聖書教師だった聖パウロは「人間は聖霊の神殿である」(一コリント6・19-20)と述べ、神の愛情深いいのちのいぶきが留まる聖なる人間のからだの尊さを主張しました。皆さんひとりひとりの心も神の愛情の実力を秘めています。
5月は「聖母月」で、マリアの母親としての愛情深さを思い出しました。6月はマリアの子イエス・キリストの心を思い出す「みこころ」の記念の一ヶ月が始まります。
※註;「聖トマスは聖母に『全三位一体の座所(Triclinium totius Trinitatis)』(『天使祝詞講話』Collationes super Ave Maria 10[竹島幸一訳])という驚くべき呼び名を与えました。『座所(Triclinium)』とは三位一体が安らう場所という意味です。なぜなら、受肉によって、三位の神は、他の被造物のうちでただ聖母にのみ宿り、恵みに満たされたその魂のうちに生きることを喜び楽しんだからです」(教皇ベネディクト16世『中世の神学者』カトリック中央協議会、2011年、335頁)。

サビオ館チャペル