朝の話|阿部神父

2026年02月12日

交易と戦争危機の時代——古代と現代

 「地政学」(Geopolitik)という学問があります。ドイツ語で「土地の状況を重視した政治学」という意味です。つまり、地理的な条件に注目して国際政治の動きを理解する学問です。「地政学」は19世紀後半以降発達した学問です。


 昨年、河内春人『ユーラシアのなかの「天平」——交易と戦争危機の時代』(角川書店、2024年)という本を読みました。古代の東アジア地域の8世紀の状況が描かれた解説書ですが、「地政学」を用いた古代史理解がまとめられていました。8世紀の国際政治の状況が活き活きと描かれていたので、まるで21世紀の国際情勢を眺めているかのような錯覚に陥ったほどです。古代は現代を理解するための「鏡」であり、現代は古代という「いま」の感覚を引き受けて生きるひとときであることがわかりました。歴史を学ぶことは現在を知ることです。玄宗皇帝の大唐帝国と弱小国日本とのあいだに新羅や渤海や安南などの周辺国家が介在しつつせめぎ合いました。そこに聖武天皇や吉備真備や阿倍仲麻呂や藤原仲麻呂や藤原清河などの日本人が関わります。阿倍仲麻呂の親友として李白や杜甫や王維も登場します。仲麻呂は安禄山の乱の最中に玄宗皇帝を護って落ち延び、その後は唐の政治を回復させつつ安南(ヴェトナム)の統治に向かいました。まさに大河ドラマです。


 8世紀の東アジアの政治状況は、まるで21世紀の国際情勢と重なります。日本という国が困難な舵取りを迫られて、沈没しそうになりながらもなんとか生きながらえようとする様子が見えてくるからです。古代人も目の前の現実を乗り切ろうとして必死に立ち回っていたのです。いまの私たちののたうちまわりかたもまた、千年後の未来人から見れば古代人のもがきとして見えてくることになります。他国との交易を続けながらも絶えざる戦争の危機に翻弄される、生と死の境界線上で絶妙なバランスを保つことが政治家たちの使命です。国の独立性を保ちつつも国際的に幅広く連携する努力が外交上の駆け引きです。


 過去の人々の「いま」を知ることで、現在の私たちのもがきかたの意味に気づかされ、どこに向かえばよいのかが、おぼろげながらに見えてきます。

このページのトップへ