朝の話|阿部神父

2025年11月06日

知性の罠

 デビッド・ロブソン(土方奈美訳)『知性の罠——なぜインテリが愚行を犯すのか』日経ビジネス文庫、2025年4月1日。この本は興味深いです。知識人が大きな失敗をするというメカニズムを説明しているからです。


 知識人は部屋に閉じこもって机の上で物事の予測を立てて計算するだけで、まるで自分がこの世のすべてを把握していると思い込む危険性を常にかかえています。現場を調べることを怠って、頭のなかで物事を操作して結論を出すことは危険です。記憶力や計算力の高い、頭のよいインテリは現場の肉体的な感触を無視するので、失敗しやすいのです。現実の物事は頭で計算できません。予測不可能な突発的なことが起こるからです。想定外の出来事の連続が社会の現実です。それゆえ常に現場を眺めつつも理想的な計画を思い描くことで、現実と理想とを調和させるだけの総合力が重要なことがわかります。


 「知性の罠」とは、現場を忘れていることです。自分の理論的なアイディアだけに過信し過ぎて、現実の生活を無視する場合に、取り返しのつかない失敗が起こります。第二次世界大戦の際に日本の知識人やリーダーは数多くの庶民を戦地に送り出すだけで、指令室から動きませんでした。現場を理解しなかったのです。現場の苦しみを見ずに、大義名分を掲げて無茶な命令を発するだけで、根性論をふりかざして無謀な指導を続けました。


 皆さんは学力も多彩な能力もある立派な学生です。将来どのような役割を果たすべきか考えるとよいでしょう。リーダーの一番重要な役割は「他人を優勝させること」です。優れたリーダーは優秀な人々を集めて、各自が思い切りよい仕事を続けられるように慎重に障害物を取り除く努力をします。そして優れたリーダーは謙虚です。相手を励まして謙虚に奉仕するリーダーの姿を見たチームメンバーは感謝して他者を支えることを学びます。

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